白黒小話
Outfoxing the foxes game ツイてないなと思った。流された先は敵国で、なおかつ俺を見つけたのは、エンハンブレでも指折りの軍人一族ロルカの人間だった。 男のお陰で軍部に潜り込むまでは良かったが、飄々として、実力の読めない男を信用することはできな…
「テオ。」 冬の寒さも厳しくなった頃、帰ろうとしていたテオをフェンネルは呼び止めた。 「なぁに?」 「クリスマス・イヴはもう予定が入っているかい?」 ん〜と悩むフリはしているが実際はテオに予定はなかった。一夜限りの相手を探すのも何か違うと思っ…
さて、モーニングを食べ終えた俺とミランは某ドラマの撮影現場に足を運んでいた。 「よ!マルセル、元気にしてるか〜?」 現場の隅の方で座っていたマルセルに声を掛けると慌てた様子で椅子から立ち上がりペコリとお辞儀した。 「お久しぶりです、ロルカさん…
あの日から彼の様子が変だ。姿が見えないから、探しにいくといつも、遠くを見つめている。そして瞳を揺らがせて、半笑いでため息をつく。今日は中庭の芝生の上に座り込んでいた。 悩みの種は分かっている。でも、私には兄弟がいないし、この国で生まれて、こ…
【聖杯戦争…?Ⅲ】 「ごめんね、マスター。言えない…言えないんだ。」 みっともなく声が震える。その時、温かいものが僕の頬に触れた。 「馬鹿ねぇ…。」 そう言って困ったように笑う彼女は記録に残る彼女とは違う人物なのだと思い知らされた。 「本当にごめん…
【聖杯戦争…?Ⅱ】 「ねぇねぇキャスター。今まで誰も来ないけど本当に戦争してるのかな?」 夜道は2人の足音とコンビニの袋が立てるガサガサという音だけが響く。 「うーん、まだ召喚されていないのかもしれないね。それに…今来られたらテオはお腹空いてて戦…
【あなたがそこにいた頃】 「おっひる〜おっひる〜!」 「テーオ、まだだよ。」 腕に大量の食べ物を抱えたテオが執務室に入ってくる。 「…今日はずいぶん沢山あるね?」 その言葉にテオはニヤリと笑う。 「さっきナルセがくれたんだ〜。いいでしょ〜?」 ま…
【面影】 諜報員として自国に潜入することになった。 「ローランくん?」 前を歩くリアが振り向いた。エヴィノニアやその周辺でよく見る赤髪と緑目。オレンジがかっていないのはやはり、ここに生まれたからに他ならない。 「ん〜?」 この任務は俺が自国では…
この近所の商店街もピリピリしてきたと思った。前線から帰された元兵士や、これから向かうのであろう若者。以前よりずっと多く見かけるようになった。 「前から知っている人の店以外には行くなよ」ナルさんにもそう注意されている。都心はもっとピリピリして…
【前日】 「うーーーーんっ!終わった〜。」 窓からは西日が差し込んでいる。 ぐるりと首を回せばゴキリと音が鳴った。 ふぅと一息ついてそちらを見やると、僕の執務室に入り浸っているテオが恨みがましそうな顔を向けていた。 「ずるいよフェンネル〜!俺な…
親切な車が止まってくれた。 会釈をし、小さな手を引いて道を渡る。 防波堤の向こうに蒼い海原が広がっていた。 立ち止まった俺をリアが不思議そうに見上げる。まだ背の低いリアには防波堤の向こうが見えていないのだと気づき、抱き上げて防波堤の上に上がろ…
「ただ〜いま〜。」 「おかえり。もうすぐ夕飯だから手を洗っておいで。」 そう言った兄貴の孔雀色の瞳がじっと俺のことを見つめる。 「な、なんだよ兄貴。」 居心地が悪くなってついぶっきらぼうに問うと兄貴は困った顔をして笑った。 「セージ、また怪我し…
「貴様にとって仲間とは何だ?」 ここに来て以来1日のほとんどを一緒に過ごす男がそう言った。 「何だよ、藪から棒に。」 曰く、カレンと話している時の俺は娘のことを話している時に似ている。 「何だろうな、家族じゃないんだけどな。まぁ “目が離せない奴…
炎暑の蝉時雨と煩悩と あれはいつだったか…そう、ちょうど今頃のように暑い日が続くそんな日だった。 俺は出来心で汐海の寝間着を隠した。そうしたら、あいつは俺のいないところでそれはまぁえっちな格好でいたわけだ。 というのも俺の寝間着を着ていたわけ…
01.朱 「貴様はその髪色で困らなかったのか?」 隣に座る調子のいい男にふと気になったことを尋ねる。なんでも黒と青を尊ぶ国柄であるらしくこの男が纏う軍服にもそれが如実に表れている。 ぼーっと風に吹かれていたらしい男はへ?と間の抜けた顔を晒した。 …
ナルさんが告げた言葉に目の前が真っ赤に染まった。激情に任せるまま引き金を引く。その時のナルさんはどこか満足そうだった。ナルさんが除隊されてから1週間が経った。今日も今日とて軍の本部、蝋燭に照らされた仮眠室に月明かりが差し込む。銃は剣と違って…
白髪の少女は座っていた。少女が愛した人と共に。彼の髪と同じオレンジの花弁が風で巻き上がる。少女は座っていた。ずっとずっとそこに。彼はそのオレンジの髪を散らして花畑に寝転がっていた。傍には愛しい少女。じわりと涙を浮かべるその姿に困ったように…
とある一軒の家。そこには青年と少女が暮らしていた。2人は共に軍に所属し時には命に関わるような任務もあったが、幸せに暮らしていた。そんなある日彼に極秘の任務が言い渡された。誰一人としてその内容を告げてはならない。そう言われた彼は残された3日を…