淡い山吹色の花と、それを幾重にも囲むのは輝く貝殻。花さえ貝殻で作られたそれを、母は薄く頬を染めて自慢げに見せた。
隣をちら、と見れば黎明の瞳を輝かせた君が、母に謂れを聞いている。
「船乗りが陸で待つ家族や恋人に贈るの。」
こう見えて器用なのよ、と母が笑うと隣に立つ父が照れ臭そうに頬をかいた。
「綺麗だな。」
同意を求めるように向けられた視線に、とくりと心臓が跳ねる。
「こういうの欲しい?ま、待ってろって。」
俺の軽口にわざとらしいため息を吐くと、ほんの少し口の端を上げて言った。
「将来、好きな人に贈ってやれ。」
*
港で少しずつ買い集めた貝殻と、こっそり作った八角形の額縁。羅針盤を模したとも言われるその形の中央には、あの子の好きな、庭の木と同じ名前を持つ貝で作った、大ぶりの花。
周りはあの子の髪と、瞳の色を入れて仕上げた。悟られないようにと、夜半に灯りの下で進める作業は、気がつけば朝日を見ることもある。
「出来た……。」
窓の外を見れば、街の下が燃えて空は薄紫に染まっていた。キリ、と痛んだ胸の痛みは無視をして、机の上に置いたそれをそっと戸棚に隠す。
嬉しそうに笑うあの子の顔が、浮かんで消えて、俺は、少しでも休もうとシーツの海へ、身体を沈めた。
ナルさんの色も入ってますね、とその子は微笑んだ。壊してしまいそう、とそっと持ち上げられたそれは、ベッドルームのサイドテーブルに飾られる。
「ナルさん。」
振り返ったその子が勢いよく飛び込んできて、受け止めきれなかった俺は、腰掛けていたベッドにそのまま倒れ込んだ。
ふわりと、背中に回した手に、赤が落ちてくる。しばらく胸に耳を当てていたその子は、徐に身体を起こすと、俺の頬に手を当てた。
まるで存在を確かめるように往復させた後、その子は口を開く。
「あまり遠くへは行かないでくださいね。」
私、弱くなってしまったので、と笑うその子の後頭部を引き寄せた。