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徒然なる日々

るくりあが小説を載せたり舞台の感想を書いたりするもの。小説は文織詩生様【http://celestial-923.hatenablog.com/about】の創作をお借りしています。

不離

白黒小話
白髪の少女は座っていた。
少女が愛した人と共に。
彼の髪と同じオレンジの花弁が風で巻き上がる。
少女は座っていた。
ずっとずっとそこに。

彼はそのオレンジの髪を散らして花畑に寝転がっていた。
傍には愛しい少女。
じわりと涙を浮かべるその姿に困ったように笑って頭を撫でる。
彼女の名前を呼ぶ。
彼は遠い日を思い出していた。

彼女との出会いは鮮烈だった。
国の者もめったに訪れることのないオレンジの花畑に座る少女。
‘‘今すぐここから離れろ!お前死にたいのか⁉︎”
私の言葉に振り向く彼女。
その透き通ったムーンライトブルーの瞳に全て見透かされそうで。
ぽつりと彼女が零した言葉に驚愕した。
‘‘…さみしいの?”
植物に蝕まれた青年と植物に愛された少女の運命が交錯した時であった。

彼は孤独だった。
国土の大半を占める、時に利となり、時に害となるオレンジの花、高山草。
それを幼い頃の実験によって自身に宿した彼はいつもどこかで諦めていたのだ。
騎士団団長となり民から慕われても。
優秀過ぎる右腕と可愛い部下に囲まれて仕事をしていても。
彼につきまとうのは幼い頃、自身が触れたことで枯れた花のように誰かを傷つけるのではないかという恐怖。
彼はその恐怖に耐えきれず自身の生を呪っていた。

彼女もまた孤独だった。
植物に愛され、自身が願えば花が咲き、実がつく。
気味悪がられ、村を追い出された彼女を護ってくれたのは植物だけだった。
植物は彼女の食べ物となり、住処となり、話し相手となった。
ある日黒い服の男が彼女を訪ねてきた。
彼は彼女に人の温もりと、人並みの暮らしを与えてくれた。
彼はいつも‘‘いってくる”と言った。
彼女は‘‘いってらっしゃい”と返した。
彼は‘‘ただいま”と帰ってきた。
彼女は‘‘おかえりなさい”と返した。
そしてある日、彼は彼女を薄暗い奥の奥の部屋へと連れて行った。
ここから出ないようにと言った彼は‘‘いってくる”と言ったので彼女は‘‘いってらっしゃい”と返した。
彼から‘‘ただいま”と言われることはなかった。

似た者同士の2人は恋仲になった。
いつも眉間にしわを寄せた副団長に呆れられるぐらいに彼は彼女を溺愛し、彼女も控えめながら彼を愛していた。
‘‘ずっと一緒にいたい”
けれど彼女は悟っていた。
彼の中の高山草が言ったのだ。
彼はもう、長くはないと。

彼と彼女は2人が出会った花畑に来ていた。
楽しそうに植物と戯れる彼女を彼は愛しそうに見つめていた。
彼女の名前を呼ぶと不思議そうな顔をして近づいてきた。
後ろを向けと言って花冠を乗せる。
自分の力で作った高山草の花冠。
頭に手をやって固まっていた彼女を不思議に思って呼ぶと振り返りざまにきゅっと抱きつかれた。
嬉しそうなその顔に自然と顔がほころぶ。
重心を後ろに傾けながら彼女を引っ張る。
ぱっと2人の周りに花弁が舞った。
彼女をぎゅっとその腕に閉じ込める。
とても幸せだった。

彼はもう限界だった。
ベッドに横たわる彼。
その傍に彼女。
他には誰もいない。
体力が落ち、上手く力をコントロール出来なくなった彼は常に毒を出し続ける状態で、彼女の他に近づける者は居なかった。
死期を悟った彼は彼女に言った。
‘‘あの場所に行きたい”

「ハナエ。」
彼女は俯けていた顔ををこちらに向けた。
目の端に溜まった涙がほろりと溢れる。
「…いや、いやだ。まだダメなの…!もう少しだけ…もう少しでいいからっ…!」
きっとハナエは私の中の高山草と話しているのだろう。
いやだいやだと繰り返すハナエをもう一度呼ぶ。
「ハナエ。」
ハナエはようやくつぶやくのを止めた。
「案ずるな、ハナエ。私はどこにも行きはしないぞ。」
左右に首を振る。
ぐっと拳を握り締めるのが見えた。
「嘘だ…。桔梗みたいにリオラも帰ってこなくなる。」
「嘘ではないぞ、ハナエ。」
とびきりの笑顔でハナエを見る。
ハナエ、私は今ちゃんとお前に笑えているか?
「私はずっとお前の側にいる。約束だ。」
右の小指を立ててハナエに向ける。
ハナエの白くて細い指が私のそれに絡んだ。
極東の、約束を破らないと誓う時にやるのだという指切りをする。
「ハナエ。」
彼女の頬に触れた指が先から朽ちていく。

‘‘私は永遠にお前の側でお前を愛し続ける”


少女は幾日も彼と共に座っていた。
ずっとずっとそこに居続けた。
また一陣の風が吹いた。
オレンジの花弁が舞い上がりその色の風となる。
ヒラヒラと花弁が地面に落ちる頃、少女の姿は忽然と消えていた。

「リオラ。」
彼が振り返った。
「おや。もう来てしまったのか、ハナエ。」
固く抱擁をかわす2人を見守るのは辺り一面の高山草だけだった。