徒然なる日々

るくりあが小説を載せたり舞台の感想を書いたりするもの。小説は文織詩生様【http://celestial-923.hatenablog.com/about】の創作をお借りしています。

書きたいところを書きたいだけ書く その6

Outfoxing the foxes game

 

ツイてないなと思った。流された先は敵国で、なおかつ俺を見つけたのは、エンハンブレでも指折りの軍人一族ロルカの人間だった。

男のお陰で軍部に潜り込むまでは良かったが、飄々として、実力の読めない男を信用することはできなかった。

 

 

 「ナルセ。」

呼び止められて振り返るとそこには件の男。

「なんすか?」

「ちょっと来い、任務だ。」

くるりと背を向けひらひらと手を振る。この国では歓迎されない明るい赤髪に孔雀色の瞳を持つ男の名はセージ・ロルカ。妻と娘の3人暮らしで、参謀部のフェンネルロルカとは兄弟。その髪色を生かして敵国に潜入したこともある所謂エリート。今も髪は伸ばしているらしい。

と、いうのが俺が男に関して俺がこれまで集めた情報だった。妻子持ち、兄弟がいるということ以外の個人情報は流していないのか、それとも警戒されているのか。何にせよめぼしい情報は手に入らなかった。

「じゃあ任務内容を説明するぞ〜。一度しか言わないから耳の穴かっぽじってよく聞けよ。」

 任務内容の書かれているらしい紙を広げると俺に渡して、読み出した。もちろん口から出ているのはでまかせだ。もしもの時のことを考えて本当の内容は紙にのみ書かれている。読み終わるとサッと取り上げられ、紙は暖炉に入れて燃やされた。これだけで詳細を覚えろって言うんだから無理を言う。

「ちゃんと身の回りの整理はしとけよな。」

任務の前には言われることだが、俺には整理するものも特にない。この男にはあるのかもしれないが。

「失礼します。」

一礼して退出しようとすると、男がもう一つ、と言った。

「諜報は遠足と一緒、帰ってくるまでが仕事だ。最後まで気ィ抜くなよ?」

後ろ手にひらひらと手を振る男はやはり、本心が読めなかった。

 

 

「それで?」

「それでってアンリお前…。調べるこっちの身にもなれよな…。」

バサリと置いた資料を琥珀が撫ぜる。するとこっちにそれを突き返してきた。

「なるほど、ね。あの国のことに関しては調べるのもお手の物ってわけか。」

「そりゃ任務に行ってたんだ。ある程度信用できる情報網ぐらいつくるさ。で、どうすんだ、軍曹?」

男は君はどう思うんだい?と質問を質問で返してくる。それに少し笑って言葉を紡いだ。

「そりゃあ使えるのかって意味か?それとも、こっちに寝返るのかって?」

「両方だよ。」

男はにっこりと笑う。琥珀色の瞳は笑っちゃあいない。いつからこいつはこんな笑い方を覚えたんだか。

「実力に関して言えばまだまだ。だが伸びしろはある。この国にいれば、な。寝返るのかって話に関しては…。」

もう一つの資料を手渡す。それを読んだ男の頭に言葉を投げる。

「元々軍に対する忠誠心のひずみはあるだろう。その事実をあいつは知らないだろうが、それを知ればもっと。あと一手ありゃあ陥ちるさ。」

「うん。じゃあこの件は君に任せるよ、セージ。拾ってきた者の責任ってね。」

ニヤリと笑った男に俺も笑みを返す。

「仰せのままに。」

今回の任務でトンズラしようったってそうは問屋がおろさないぜ?あいつはあいつでこっちを騙してるつもりらしいが、こっちはこっちでやらせてもらう。成海正也、お前の正義は白か、黒か?

 

Orthrus


グラフィアスには双頭の犬がが居る。


「…らしいが、始都の人間に使われる気分ってのはどうなんだろうな。」

「あぁ、グラフィアスのこと?あの部隊は、そもそも星都の人間はロルカの弟の方だけだろ。ロルカだし、慣れっこなんじゃないか?」

それもそうか、と男は手元のリストを眺めながら、目の前の本棚から抜き取っていく。

「でもまぁ、これからどうなるかねぇ、あの部隊。ほら、始都の件もあるしよ。」

さぁねともう一人は興味なさそうに返した。

「それより僕は、グラフィアスに関して違う話の方が興味がある。」

男はその言葉に片眉をあげる。興味を持ったらしいその仕草にもう一人の男はクスリと笑った。

「なんでもその始都の件の時に、ロルカが神格化を止めたとか。」

「まじかよ⁉︎あいつ寵児でもなんでもなかったよな⁉︎」

だと思うんだけどねぇ、と呑気に返す男の方をもう一人が叩く。そして耳元で眉をひそめてこう言った。

「それなら…エヴィノニアの血に関係が…?」

 


 


「と、いう噂が。」

その言葉を聞いた男はクツクツと忍び笑いをこぼした。

「いや、失礼。面白いね。出処は図書館員かい?」

「えぇ。図書館員といえど諜報員ですから、現地にいた誰かと繋がりがあったのでしょう。」

にしても、と広い執務机に肘をついた男はまだ治らないらしい笑みをその顔に張り付かせたまま言葉を紡ぐ。

「エヴィノニアの血だとは笑わせる。そんな絶対的なものじゃないさ、アレは。」

と、言いますと?と部下は先を促す。すると男は組んだ手の上に顎を乗せて言った。

「確かに、ロルカ家はエヴィノニアンの特徴を今尚、色濃く残す一族であることは間違いないだろうね。けれど、アレはただのアンリ・オルディアレスの精神に依るものさ。年長者は敬うべきで、意見は聞くべきだ、というね。」

「それだけ、ですか?」

拍子抜けしたように言った部下に対し、それだけのことだよと男は微笑む。そして、自身の髪を指差した。

「もしかすると、彼のこれまでの経験も信頼を得たことに関係あるかもしれないけれど。人に避けられたり、蔑まれたりするという経験を持つものはそう多くない。」

まぁ、そうだとすればと男は手元の資料に目を遣った。

ロルカは使える。寵児に対して有効にな。」


双頭の犬の鎖の先に居るのは、誰か。