徒然なる日々

るくりあが小説を載せたり舞台の感想を書いたりするもの。小説は文織詩生様【http://celestial-923.hatenablog.com/about】の創作をお借りしています。

擬似家族 ~The pseudo-family~

0.重なる影

中央に置かれた棺と、その周りに飾られた花。そしてキチッとスーツを着て不敵に笑う赤髪の男。左右に分かれた親族の左側には、真っ赤に目を腫らした黒髪の女性と義父義母らしき老夫婦が座っていた。右側には喪主らしい亜麻色の髪の男性とその隣に赤髪の少女。後ろには男性の奥さんと子供たちが並んでいた。

葬儀は厳かに行われ、男の人柄かたくさんの人が訪れた。

そうして参列者の少なくなった部屋でそれは起こった。右側に居た親族がおざなりに左側の親族に挨拶をして帰ろうとする。黒髪の女性は逡巡を見せた後深く頭を下げる。去っていく背中に後ろに座って居た亜麻色の髪の少女が立ち上がって言葉を投げつけた。

「It's your fault! You ... because of you, my uncle…!(貴女のせいよ!貴女の…貴女のせいでおじさんは…!)」

「Hortensia.(オルテンシア)」

男性が少女を諌めるも少女は腹の虫が収まらないのか、肩に置かれた手を振り払ってツカツカと帰ろうとしていた親族に歩み寄った。

「I will say it in this case. The old man and the old lady there are the worst! But you are also the same sin. Do you know how much my uncle suffered? Do you understand how much Lia felt lonely?(この際言ってやるわよ。そこのじじいとばばあが1番悪いのよ!でも、貴女も同罪よ。おじさんがどれだけ苦しんだか知ってる?リアがどれだけ寂しい思いをしたか貴女に分かるの?)」

涙目で睨みつけながら激昂する少女に赤髪の少女が駆け寄った。

「I'm alright. ... Thank you, Hortensia.(私は大丈夫だよ。…ありがとう、オルテンシアお姉ちゃん。)」

泣き崩れた少女の背中を小さな手で撫でる。黒髪の女性が何かを老夫婦に言って離れる。老夫婦は少女の言葉は分からなかったようだが、悪いことを言われているということは分かったらしく、憮然とした表情で会場に背を向けた。

女性は少女、リアを抱きしめると何かを言っている。リアは頷いて笑顔を見せる。女性はもう一度抱きしめるとやはり会場を出て行った。

「君がナルセ君かい?」

少し訛りのある声に振り向くと亜麻色の髪の男性が立っていた。

「えぇ。I'm Narumi Seiya.Nice to meet you,Mr. Lorca.(成海正也です。はじめまして、ロルカさん。)」

「You can speak English! Then, you could understand the argument just before... I showed you an unsightly argument.(君は英語が話せるのか!それならさっきの話も分かっていたね。お見苦しいところを見せてしまったよ。)」

あ、僕はセージの兄でフェンネルって言うんだ。よろしくねと差し出された手を握る。

「Do you take care of Lia?(あなたがリアを引き取るんですか?)」

「No... Lia said “No”.Lia can speak both English and Japanese, and I think that there is no problem overseas. But, I think she do not want to leave her mom 's side.(いや…リアが嫌だって言っててね。リアは英語も日本語も話せるし、海外での生活も問題はないと思う。でも、きっとお母さんのそばを離れたくないんだろうね。)」

困り顔で笑う男性の視線の先にはオルテンシアという少女に座って背中を撫でられているリア。それがあの日の彼女の背中と重なって見えた。そう思った瞬間、俺の口から言葉が溢れた。

 

1.出会いはカレーライスとともに

「ただいま…。」

今日はセイの上司の葬式だった。私も良くしてもらったので、出席していたがセイが娘さんにも挨拶してから帰りたいというので先に家に帰ってきていたのだった。

「おかえり、セイ。夕飯はまだだろう。食べに行く…。…なぜ娘さんを連れて来ている?」

セイの後ろにぴったりくっついて来ていたのは紛うことなく先の上司の娘さんだろう。

「あ、あのなエンちゃん。そのぉ…リアをしばらく家で預かることになった!」

「はあ⁉︎」

 

かくかくしかじかとセイは説明をする。もちろん正座だ。

「それで?」

「…ロルカさんが仕事先にどうにか日本に転勤させてもらえないか打診して決定するまでの間、預かってくれないかって。会って決めるなら早い方が良いかなと思って…。」

話すにつれて縮こまっていくセイの頭にため息を落とす。本当にお人好しで困ったものだ。

「第一、この子の母親はどうした。母親が引き取れば何も問題はないだろう。」

「お母さんには新しい家族がいますから。」

それまでセイの横で所在なさげに座っていた少女が、妙にはっきりと言い切った。

「なるほど。」

私の応えに、じゃあとセイは顔を輝かせるが、それを視線で制する。

「だが、やはり人さまの娘さんをこんな誰も帰って来ないような家に置いておくのは気がひける。然るべき施設で預かってもらった方がこの子のためだ。」

「…そうなんだけど…。ここ、リアの実家にも学校にも近いんだ。家に人がいないのは前から変わらないから、それだったら前とほとんど変わらない生活ができた方が良いって…。」

確かによくよく考えてみれば、セイの上司なのだから、一応は家に帰っていたとしても遅かったし不定期だったはずだ。

束の間の沈黙が流れたその時、セイの腹の虫が鳴いた。

「…お台所をお借りしてもよろしいでしょうか?」

小さく笑って少女はそう提案した。

 

「出来ました。」

湯気を立てているのは半分ライス、半分ルーが乗った日本の国民食。煮込んでいる間に作ったサラダ、スープがあってとても30分で作ったとは思えない食事が目の前に置かれた。

「お、美味そ〜!いただきます!」

「いただきます。」

少し大きめに切られた具材、水の量も完璧だ。とても小学生が作ったものとは思えない。

「…何をしている?」

少女が中々手をつけようとしないので問いかけると困ったように笑って言った。

「…牛乳をいただいても良いでしょうか?」

それならと頷いてコップに入れて渡すとお礼を言われる。そしてそれにスプーンを突っ込んで2匙、カレーにかけた。

「ちょ…リア何してるんだ…?」

セイが食べる手を止めて聞くと、少し恥ずかしそうに少女は言った。

「こうすると中辛でもまろやかになるんです。…家では甘辛で2人分作っていたので。」

なるほどと私もやってみる。確かに少しスパイスの棘が取れてまろやかに感じた。

「これはこれで美味しいな。」

そう言うと少女はにっこりと笑顔を見せた。

 

「セイ。」

少女に洗い物は任せて風呂に入ってこいと言って、2人で台所に立っていた。

「ん?」

「その…私たちでいいのだろうか。」

お前はまだしも、私は料理もあの子よりできないし、そもそも親の…と言ったところで頬を手で挟まれた。

「ほーんとエンちゃんはさ…。大丈夫だよ。」

「何を根拠にそんなこと…!」

私がいきり立つとぎゅっと抱きしめられた。

「な…あの子が出てきたらどうする…「エンちゃん。」

セイに真面目な声を出されるとどうしたらいいのか分からなくなる。腕の中でおとなしくしているとあのね、と言葉を続けた。

「リア、お母さんと暮らした記憶はほとんどないらしいんだ。もちろん、年に何回かは会っていたけれど、お母さんが家にいるってことは無いに等しい。」

だからさ、とセイは私の目を見て言った。

「リアにとって、家にいるお母さんはエンちゃんにしかなれないんだよ。」

本人の意思とセイのその一言もあり、こうして私と、セイ、そしてリアの不思議な家族生活はスタートした。

 

2.パンケーキで分かること

3人での生活が始まって2週間。最近、ようやく軌道に乗ってきた。
結局、家事はリアに一任してしまっている。本人は苦にならないと言うし、こちらもどちらかが休日に洗濯物の山と格闘するということがなくなって助かっていた。
「ただいま。」
トタトタと軽い足音が聞こえてひょこりと小さな頭が覗く。
「おかえりなさい、エンさん。」
2人で週に2日、つまり1日は定時であがってリアと買い物に行くことにしている。スーツから着替え、リアを呼び寄せる。
「行こうか。」
連れ立って近所のスーパーマーケットへと向かう。段々日が短くなってきて、18時を過ぎた頃だと言うのに少し薄暗い。
行く道すがらはつい無言になってしまう。私がどう接したら良いのか分からないし、リアもおしゃべりな方ではないみたいだ。
「最近はどうだ?ちゃんと遊んでいるのか?」
セイが聞いたらなんだその親父みたいなセリフと言われそうだが今は居ないので無視だ。無言よりはマシだろう。
「はい。この間はアランくんとローランくんのお家にお邪魔しました。お母さんがすごく面白くて…。」
何やら思い出したらしく、クスクスと笑っている。楽しそうな様子に少しホッとした。多分、おそらく、いや、少なからず寂しい思いをさせていると思っていたからだ。
「そうか。今度会ってみたいものだ。」
それがこれまたセイの上司の奥さんであることを知るのはもう少し後だ。
と、リアが街角で足を止めた。
「どうした…?…ふむ。」
リアが視線を注いでいたのはちいさなカフェの看板。そこには生クリームがたっぷりと乗って甘そうなパンケーキの写真が貼られていた。
「…今日はここで食べてみるか?セイは遅くなると言っていたし、連絡しておけば大丈夫だろう。」
パッとこちらを見たリアの顔には喜色が浮かんでいたが、しばらくすると瞳が逡巡し、下へと落ちて行った。
「いえ…今日は特売の卵と鶏肉を買わなければ行けませんから。…また今度にしましょう。」
…気を使われてしまったと思った。やはりまだ、完全には受け入れていないのだろう。
寝る時もダブルサイズのベッドの真ん中で寝ているが、距離がある。…セイが大体抱き込むが。赤の他人であるのだから当たり前だが、こうも甘えられないと少し寂しく感じてしまう。
「エンさん…?」
「いや。そうだな、また今度にしよう。」
年よりも大人びて見える少女の可愛らしいところを見たのに、何もできない自分が少し歯がゆかった。

 

「何やら悩んでいるのか?」
「…ルシオール課長…。えぇ、まぁ少し…。」
私が所属している警察庁特殊犯罪捜査第2課の課長、リオラ・ルシオールがデスクに来ると、周りの同僚たちもわらわらと集まってきた。
「また何か悩んでいるのか!今度はどんな悩みだ?」
「もう!兄さんはどうせ頼りにならないんだから!シオミさん、私が相談に乗りますわ。」
豪快な兄バレットとしっかり者の妹オペラの兄妹も話しかけてくる。
「そ、そこまで深刻な悩みでは…。」
「しかし、最近ロルカの娘御を預かっていると聞いたが?」
そのことではないのか?と聞いて来るのはガイラス。長身の美男子だがその実態はルシオール課長の妹君、リリアにベタ惚れのちょっと…いや、だいぶ残念な人だ。
「…その、この間パンケーキに興味があるようだったので食べないかと言ってみたのですが遠慮されてしまって…。本当は食べたかったけれど、私だから気を使ったのではないかと…。」
けれど無理に言うようなことでもないと思いまして…と言うとリュカがポンと手を叩いた。
「なら、お家で作ったらどうでしょう?」
「家で…?」
えぇとリュカは頷く。
「家でパンケーキを焼いて、生クリームやフルーツなんかを自分好みにデコレーションするんですよ。この間甥っ子とやったんですが、とっても喜んでいました。」
コミュニケーションも取りやすいですしねとリュカが言った。
「それは良い案だ!ミランの所でもそのような事をやっていたな。」
次第に話題はパンケーキに何を乗せるか、あぁでもないこうでもないと移っていったが、有意義なアドバイスがもらえたと思う。早速週末にやってみよう。
「悩みごとを話すと良いこともあるだろう?」
ふと見上げると、そう言ってルシオール課長は笑っていた。

 

薄力粉、ベーキングパウダー、卵に砂糖、牛乳、そしてしっとり感を生み出すために必要なのはヨーグルト…らしい。それらの材料を前に私は腕まくりをした。
「よし…。」
「大丈夫かよ…?逆にリアがいた方が良かったんじゃ…。」
隣に立つ男を視線で黙らせる。リアは今、件の友だちと夢の国に行っている。
今朝、インターホンの音でセイがドアを開けた先に立っていた人物に私は目を丸くしてしまった。
「おはようございます、フォートリエ課長!」
「…おはよう。」
仕事は出来るが、近寄りがたい雰囲気を醸し出すセイの上司、ミラン・フォートリエがドアの前に立っていたのだ。
「無理言ってしまってすみません。お願いしますね。」
「いや…。貴様らも2人でゆっくりしたいこともあるだろう。それに…元々約束していたしな。」
フォートリエ課長は足元で準備万端とばかりに立っているリアの頭を慣れたように撫でて、少しだけ悲しげな色を瞳に浮かべた。帰る前に一度連絡を入れると告げて、リアを連れて出かけて行ったのだった。
「おーい、シオミちゃーん?戻ってこーい。」
少しだけ今朝のことを思い出してぼーっとしてしまっていたらしい。目の前で振られる手にはっとする。
「あぁ。では作るぞ。…まず小麦粉とベーキングパウダーを合わせふるいする…。この合わせふるいとはなんだ。」
「んん〜?あ、ほらこのふるいにどっちも入れてふるうんだよ。」
そう言われて渡されたのは丸い粉ふるい。そこに分量通りに小麦粉とベーキングパウダーを入れる。
「…こうか?」

ボウルの上で横に振ってみる。粉がパラパラとボウルの外に落ちてしまう。見兼ねたセイが後ろから回って手を添えてくれた。

「こうやって、片方の手でふるいを持って、ボウルの上で固定させるんだ。そしたら、もう片方の手でトントンって枠を叩いて…。」

言う通りにトントンと叩けば粉が真下に落ちていく。

「なるほどな。ふるいと言っても振らなくて良いわけか。」

 リアと作るときにこんな情けないところを見せられないなとセイに言うと笑って言った。

「そんなに気張らなくても大丈夫だよ。」

そうか?と聞くと頷いてくれた。リアは、喜んでくれるだろうか。

卵白は泡立ててメレンゲに、先に卵黄と砂糖を混ぜ合わせ、ヨーグルトと牛乳を入れる。そして先ほどの粉を入れ、バニラエッセンスを少々、最後にメレンゲを入れればタネは完成だ。

「おー、すでにふわふわだな!後は焼くだけか…。」

「うむ。では…いざ!」

熱したフライパンにタネを一すくい流し入れた。

 

「…出来た…。」

「沢山焦がしたけどな。」

隣でチャチャを入れてくる奴の足を踏んだ。

「だが、これで完璧だ!焦らず、じっくり低温で焼けば綺麗に焼ける!!」

綺麗なきつね色に焼けたパンケーキを前にそう言えばポンポンと頭を撫でられた。

「これでリアも喜んでくれるな。」

「…本当にそう思うか?」

セイは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした後、眉を下げて笑った。

「当たり前だろ。大して手伝ってないけど俺も楽しかったし。リアだって喜ぶに決まってるさ。」

ホッと息を吐く。これでなんとかパンケーキは作ることが出来そうだ。そして最後の問題は…

「ホイップクリームを作らなくてはな。」

そう、リアが見ていたパンケーキにはたっぷり生クリームが乗っていたのだった。もちろん、市販の泡立ててあるものを使っても良いが、あまり身体に良くないそうだし、何より量が食べられないという意見が多かった。やはり自由にやらせてやるには自分で作った方が良さそうだったのだ。

「氷水の上で冷やしながらやるのがコツらしいぞ。」

ボウルに氷水を入れてその上に生クリームを入れたボウルを乗せてハンドミキサーを手にする。泡立て始まればあっという間にとろみがついてきた。

「エンちゃん、あんまり泡立てすぎるとまとまらなく…って、もう止めろ!ストップ!」

「え?」

 セイの慌てた声にハンドミキサーを止めて手元を見ればホイップクリームが出来上がっているように見えた。

「完成か?」

「…まぁ、そうだな。ちょっと泡立てすぎてボソッとしちまってるけど…。味には問題ないはずだ。」

言われて見れば角が立ちすぎて少しボソボソしてしまったようだ。

「…次に活かそう。」

結論、私にしてはフワフワのパンケーキが作れ、生クリームの味も悪くなかった。

 

「ただいま。」

「おーおかえり!フォートリエ課長、お世話になりました。」

19時頃、リアが帰宅した。セイとともに頭を下げれば構わんと返された。

「では「リアちゃん!これが噂のナルセさんとエンさんね!!」

フォートリエ課長の後ろからひょこりと女性が出てくる。

「クロエ…近所迷惑だ。」

「それもそうね!あ、私ミランの妻のクロエです。よろしくね?そうそう!もし学校とかのことで分からないことがあったら聞いてちょうだい!息子たちが同じ学校なのよ〜。」

声は小さくなったものの、マシンガンのように話すクロエさんに目を白黒させているとリアがちょいと袖を引っ張った。

屈むとこそこそと耳打ちしてくる。

「アランくんとローランくんのお母さんです。面白いでしょう?」

「…確かに。」

頷くとリアがちょっと嬉しそうに笑った。

「リアを預かっています、塩倉汐海です。こっちは成海正也。いつもフォートリエさんにはお世話になっております。どうぞ、よろしく。」

「私もエンちゃんって呼んでもいいのかしら?」

えぇと頷くと嬉しい!と言って隣のフォートリエ課長を見上げた。

「さ、帰りましょ。またね、エンちゃん、ナルセくん!ママトークもしましょうね〜!」

「…騒がせたな。」

嵐のように去っていったフォートリエ課長夫妻に暫し呆然とする。

「リア〜楽しかったか〜〜??」

セイが聞くとすぐに頷いた。そしてカバンを降ろすと中から小さな袋が2つ出てくる。中身を確認すると1つずつ私とセイに渡してくれた。

「お土産です!」

中身を出してみるとどうやら色違いのストラップのようだ。

 「…ありがとう。でも、これではリアの好きなものが買えなかったんじゃないか?」

そう言うとリアは少し困ったように笑っていた。

「気に入らなかったですか?」

「いや!嬉しいよ。」

それならいいんですとリアは言う。

「私だけ買うよりも、皆の分を買って嬉しくなってもらった方がいいんです。」

「リア〜!!!!」

がばっとセイが抱きつく。私も、リアの優しさが嬉しくてセイに促されるまま抱きしめた。苦しいですと笑うリアもとても嬉しそうに見えた。

 

「さて、今日のお昼はパンケーキを作るぞ。」

コクリと隣でリアが頷く。リアが手伝ってくれたのもあり、しっかり予習をして焼き上げたパンケーキは綺麗な黄金色をしていた。

「お、美味そうじゃん。」

匂いにつられてソファから立ち上がりこちらに寄ってきたセイにボウルとハンドミキサーを渡す。

「さあ、生クリームだ。…失敗するなよ?」

「エンちゃんと違って失敗しませんぐっ!」

余計なことを言い出したセイの口を慌てて塞ぐ。幸いなことにリアに気づいた素振りはない。足の指を思い切り踏んづけてからリアの元に戻る。

「さ、好きなものを乗せていいぞ。今、セイが生クリームも作ってるからな。」

コクリと頷いたリアが先に切ってあったフルーツに手を伸ばす。輪切りになったキウイに一口大のパイナップルや房の薄皮を剥いたオレンジ。普段料理をするとはいえ、やはりカラフルなフルーツや生クリームを乗せて甘いパンケーキを作るのは楽しいのだろうか。真剣にパンケーキと格闘していたと思っていたら、いつの間にか私の方を見ていた。

「エンさん。」

呼ばれて首をかしげるとリアが内緒話をするように耳元で囁いた。

「ありがとうございます。」

こうしてリアとの距離は少しずつ、けれど順調に縮まっていったのだ。