徒然なる日々

るくりあが小説を載せたり舞台の感想を書いたりするもの。小説は文織詩生様【http://celestial-923.hatenablog.com/about】の創作をお借りしています。

Monochrome

世界が白と黒だったら良かったのになんて、この時初めて思った。

 

Monochrome

 

きっかけは偶然聞こえたバルヒェットくんの一言だったと思う。

「なぁなぁ知ってるか?赤髪の奴って先祖はエヴィノニア人なんだってさ!」

いつもバルヒェットくんと一緒にいる子たちが口々にそれって本当?とか物知りだねなんて言っている。

「本当だよ!俺が髪の色が何で違うのかって聞いた時に、ロルカの家は祖国がエヴィノニアだからって父さんが言ってたからな。」

「じゃあさ、敵国の血が流れてるってことか?」

その子の質問にそうだよな?ってバルヒェットくんに同意を求められた。

「…う、うん。でもずっと昔のはな「ほらな?あいつは普通のエンハンブレ人じゃないんだよ!」

「そういえば、赤髪はエヴィノニア人の特徴だもんな。」

その話はすぐに皆が知る話になって、程なく学校に行くのが辛くなった。

 

「ただいま。」

「おかえり、リア…どうしたその怪我⁉︎」

いつもはナルさんの方が帰ってくるのが遅いから油断していた。ちょっと笑って一応考えておいた言い訳を言う。

「帰りに転んじゃっただけ。大丈夫だよ。」

ナルさんはそう言った私をじっと見るとそうかと納得してくれた。良かった。バレてない。

「じゃあ消毒しなきゃな。ほら、こっち来い。」

優しく手当てをしてくれるナルさんに怪我よりも心が痛くなったけど、心配かけたくなかった。

だって、赤髪だからいじめられてるなんてナルさんにどうにかできることじゃない。

私がナルさんだったらそんなこと言われたって困る。

だから、黙ってた。

学校に行っても誰も話しかけてくれなくなったことも、男の子たちに叩かれたり、蹴られたり、押されたりすることも、トイレに閉じ込められたことも、今日は足を引っ掛けられて転んだことも、全部全部黙ってた。

 「よし、気をつけろよ?傷が残ったら大変だからな。」

「うん。」

夕飯の支度に台所へ行くナルさんを椅子に座って見送る。窓の外ではお父さんが好きだった桜の花が春の訪れを祝っていた。

 

夢の始まりはいつも家族でお花見をした時のこと。私は今より小さくて、お父さんに軽々と肩車されている。

桜に手を伸ばして1つ摘み取る。お父さんもお母さんも幸せそうに笑っている。綺麗だねって桜を見ながらご飯を食べる。 

場面はいつの間にか変わってあの日。

ただ、違うのはお父さんもお母さんも私と手を繋いで歩いているところ。そして気がつくと私は1人で、手を繋いで歩いていくお父さんとお母さんを見ているのだ。ひらひらと桜のように舞う雪がその姿を隠していく。

必死に叫んで追いかけるけれど追いつかない。呼んでも振り返ってくれない。

足がもつれて転んで、視界がぼやけていつもそこで目が覚める。

最初の頃は飛び起きていつもナルさんを起こしてしまっていたけれど、今や慣れたもので目を覚ますだけになった。起こさないように、なるべく身じろぎもしないようにして再び眠りにつく。

明日は何もないと良いなと考えながら。

 

 

「暑…。」

珍しく晴れた初夏の午後。今日は学校帰りにリアと合流して帰ることになっていた。

リアの通う学校の方から数人の男の子たちが歩いてくる。どうやら授業は終わっているらしい。

「あれ?居ないのか。」

てっきり外で待っているかと思ったが、この天気だ。中で待っているように促されたのかもしれないとあたりをつけて中に入る。

「あら、ロルカくんじゃない?」

久しぶりね〜と笑うのは俺が通っていた頃から居る古株の先生だ。

「あ、お久しぶりです。リア…えっと、ルクリアがどこに居るか知ってます?」

「ルクリアちゃん?もうとっくに帰ったかと思っていたけれど…。そういえば帰ったのまだ見てないわね…。教室に居るんじゃないかしら?廊下を歩いていって突き当たりの部屋よ。」

お礼を言って別れる。教えてもらった部屋の前に着き、引き戸を引くも開かない。

足元を見るとなぜか心張り棒がしてある。

おかしいなと思いつつ心張り棒を外して中に入るとそこにはうずくまるリアが居た。

「リア…?」

俺の声にバッと顔を上げたリアは怯えと安堵が入り混じったような表情を浮かべていた。

「ディルお兄ちゃん…。」

ごめんね、すぐ準備するからと何もなかったように振る舞うリアの様子に、俺はこのことかと思ったし、驚いて言葉も出て来なかった。

 

父さんが重い口を開いたのは久しぶりに全員が揃った夕飯でのことだった。

「え…。」

「どういうこと?リアがいじめられているかもしれないけど分からないって。」

分からないわけないじゃない!毎日一緒にいるんだから!と憤慨した姉さんを母さんがなだめる。

「落ち着いてオルテンシア。だからナルセくんに相談されたんだよ。リアは隠したいみたいでね…聞いてもはぐらかされてしまうらしい。」

心配かけたくないんだろうねと父さんが言う。姉さんもその気持ちは分かるらしく、しゅんとしてしまった。

「だから貴方、急にリアちゃんを預かるなんて言い出したのね。ナルセくんが数日家を空けるぐらいならオルディアレスさんの所に頼むのに。」

母さんが納得したように言うと、父さんはまいったなというように髪を乱した。

「そういうことだよ。多分ディルウィードが1番話しやすいだろうから。」

多分ナルセさんよりは話しやすいはずだ。歳も近いし、それに…

「うん。何かきっかけを見つけて俺から話してみる。」

頼むよと父さんが言ってこの話は終わりになったけれど、俺にとって実際に見た“それ”は想像以上に衝撃的だったのだ。

 

家に帰ると姉さんが迎えてくれた。

「リア、いらっしゃい!」

「お邪魔します。」

上がったリアの背を押しながら姉さんが俺に耳打ちする。

「で、どうなのよ。リアちゃん話してくれた?」

「…ごまかされた…。」

何やってんのバカ!と小声で叱咤してくる。

「…後で詳しく聞くわ。どうせリアが健気で言い出せなかったんでしょ。」

まったくもうと言いながらリアにその様子を悟られることなく奥へと進む。ふと、廊下に置かれた大鏡を見遣る。

 母さん譲りの灰色が映すのはおじさんやリアと同じ赤色。唯一違うのはまっすぐで癖がない所だろうか。母さんの赤茶とは違う赤に俺も色々悩んだ時期があった。そうあの時は…

「ディルお兄ちゃん。」

くいと袖を引かれ下を見遣るとリアが小首を傾げて覗き込んでいた。

「どうしたの?」

「あ、ごめんね。ぼんやりしてた。何しようか?」

シエロと遊ぶのと俺の手を引いて庭へと向かう。とっくに荷物を置いていたらしい。後ろから姉さんが来て荷物を持ってくれた。

「ほら、早く行ってあげなよ。私も行くから。」

リアと庭へと出ると日陰に居たシエロが尻尾を振りながら寄ってくる。シエロはピレニアン・マスティフという大型犬で白い毛に雲のように灰色の毛が混ざっている。そこから姉さんがシエロ、空と名付けたのだった。

「シエロ、くすぐったいよ〜。」

寝転んだリアの顔を舐めるシエロに笑っている。楽しそうなその様子にさっき見たのは嘘なんじゃないかと思ってしまう。

「で、何があったのよ?」

突然、横から声がしてそちらを見ると姉さんが渋い顔で見ていた。

「学校でいじめられてるのは間違いないと思うんだ。俺が迎えに行った時は教室に閉じ込められていたし。」

心張り棒で扉を塞がれててさと言うと姉さんが強烈な蹴りを尻に叩き込んできた。

「いっ…!!」

「ほんっとにディルは阿保ね。余計に言い出しにくいじゃない!ていうかよくその場をそのままにできたわね⁉︎」

痛みを堪えながらリアの方を見るとどうやらシエロと遊ぶのに夢中で気がつかなかったらしい。一般人に於いて最強の女と言って過言ではなさそうな姉さんの一面を見せてなおかつ感化されたとしたら…いや、怖いからやめておこう。

「…俺が見つけた時、一瞬嬉しそうな顔をしたんだ。でも、その後泣きそうな顔をした。多分…」

口ごもった俺の言葉を姉さんが拾う。

「おじさんだと思ったけど違った。もうおじさんは居ないんだと突きつけられた。私は1人で、頼れる人は。」

「「赤髪ではない。」」

姉さんはあーともうーともつかない声で呻いて芝生に座った。

「悔しいわね、私たちの方が血縁で、小さい頃から一緒に居たのに。」

口を尖らせる姉さんは途端に子供っぽくなる。

なんとなくその隣に座ってシエロと遊ぶリアを見る。

「なら、なおさら今回は俺たちがリアを助けてあげなきゃだ。ね、姉さん。」

分かってるわよそんなこと、と姉さんにどつかれた。よし!と姉さんは自分の頬を叩いて立ち上がる。

「こうなったら夕飯の後、直球で聞くわよ!」

大丈夫か…?と思ったが結論から言うとそれは実行されることはなかった。

 

 

「ただいま〜。」

静まり返った家にそうかリアは居ないんだったと思い出した。

リアは春頃から何となくおかしかった。元々そんなに表情を変えるような子どもではなかったのだが、今まで以上に笑うことが増えた。

もちろんちゃんとした笑顔なら良い。けれど、心配かけまいと笑っているように見えたのだ。何かを隠していることが確信に変わったのは膝を擦りむいて帰って来た時のことだろうか。俺だって諜報員だ。ただ怪我をしただけでないのは泳ぐ緑色ですぐに分かった。

それからも引っかかることがあれば聞いてみるも追求しづらい理由ではぐらかされてきた。

今回、フェンネルさんに相談するに至ったのは、目に見えて塞ぎこむことが増えた頃、リアと墓参りに行った時のことだ。

 

「誰だ…?」

花束を抱えて墓地を歩いているとどうやら2人の墓石の前に佇んでいるらしい人影が見えた。

その壮年の男性はこちらに気づくと会釈をする。

フィデリオさん…?」

「あぁ、リアちゃんか。久しぶりだね、元気にしてた?」

 鳶色の頭をしたその人はリアに微笑む。リアは俺の袖を引くとその人のことを紹介してくれた。

「お父さんのお友達のフィデリオ・キースリングさん。フィデリオさん、今私と住んでくれてるナルセさん。」

あぁとキースリングさんは一礼する。慌てて俺も一礼するとその様子に随分幼い笑みを浮かべた。

「君が噂のナルセくんか。セージやフェンネルさんから話は聞いているよ。」

想像していたよりずっと若いとキースリングさんは言った。

「ロルカ大佐とも知り合いなんですね、驚きました。」

「腐れ縁みたいなものさ。あ、お墓まいりだよね。時間を取らせてごめんよ。」

じゃあまたねとリアに手を振ると俺とすれ違う。

「悩みがあるならフェンネルさんに相談しなよ。いつも参謀部のどこかに居るから。」

小声で耳打ちされてバッと振り返ると茶目っ気たっぷりにウインクされた。

「…ナルさん?」

流石セージさんの友達…と思っていたらリアに不思議そうな顔をされてしまったが、そんなこんなでロルカ大佐に相談することに相成ったのだった。

 

「おや、ナルセくん。珍しいね。」

 どうしたんだい?とにこやかに言うロルカ大佐はセージさんの話の印象通りの人だった。

整頓された書類、必要最低限の物で構成された部屋、その中央に君臨する大佐に居心地が悪くなる。もちろんグラフィアスだって汚いわけではないがもっと雑多な感じがするものだ。

「リアのことで少し相談がありまして…。」

へぇと細められた目にゾクリと悪寒が走る。なんとか平静を保ち今の現状を伝えるとさっきまでの鋭い目が嘘のように目尻が下がって温和な笑みを浮かべた。

「まったく、親子でそっくりだね。ナルセくんも中々強くは言いにくいだろうし、リアが言いたくないんじゃ仕方ないし…。2、3日家で預かって、息子に聞かせてみようか。」

赤髪なんだと続ける大佐が放った一言に衝撃が走る。

「昔、いじめられたことが原因で学校に行かなくなったこともあるから多分、リアのことも分かってやってくれると思うよ。」

何でもないことのように言っているが大変なことだ。特に当事者はどうやって再び学校に行こうと思ったのか。一度行かなくなってしまえば理由がなくたって行きにくいものだ。

「その、一つお聞きしたいことがあるのですがよろしいですか。」

もちろんと大佐は頷く。

「息子さんはどのように克服されたので…?」

俺のその言葉に大佐はにっこりと笑った。

 

 

「ディール坊。入るぞ〜。」

ガチャリとドアが開き、おじさんが入ってきたのが分かる。籠城していたベッドが軋んでたわんだ。

「…入って良いって言ってないじゃん。」

「ん〜?そうだっけ?」

白々しくとぼける声が聞こえる。と思ったらおりゃと丸まっていた布団の隙間から手が入ってきてくすぐってきた。

「ちょ…っと!くすぐったいって!ふっ…くくく、もう!」

バサリと布団を捲り上げると悪戯が成功した子どもみたいに笑うおじさんが居た。

ぐりぐりと頭を撫でられるとしゃらしゃらと耳におじさんに憧れて伸ばした長い髪が当たる音がする。

少し前までは胸の下まで伸ばした髪を頭頂部で一つで括っていたおじさんがそれはもう幼心にかっこよくて…いや、そうではないのかもしれない。

赤髪でも堂々としていたおじさんに憧れていたのだ。赤髪だからなんだとでも言いたげなその長い髪に尊敬と羨望があったのだ。自分もああやって生きたいと。

「ディル坊、学校で何かあったのか?おじさんに話してみな?」

さっきまでふざけていたようには見えない真面目な顔で問いかけてくる。

「…学校に学者さんが来たんだ。エンハンブレの歴史を調べている人なんだって。」

 

『エンハンブレは他民族を受け入れつつ繁栄して来た国です。例えば最近で言えばレア国ですね。あぁ、そこに座っている赤髪の子。君も祖国はエヴィノニアだろう?』

「えっと…、祖先はそうですが…。」

その人はそうだよなというようにうんうんと頷いた。

『そう、この様にエンハンブレは寛大な心を持って他民族を受け入れて来たのです。…』

 

「それで?」

「エンハンブレに受け入れて“もらった”んだから俺らの言うことを聞けって言ってくる奴らが居て…。」

最初はただのパシリだった。それだけなら耐えられた。でも、段々それだけでは無くなった。

万引きを強要されたり、お金を要求されたりした。俺が拒むと奴らの気がすむまで殴られた。

「…何で兄貴…お父さんに言わなかったんだ?気がつかれなかった訳ないだろ?」

「あいつらが父さんの仕事に関わるって…。俺、赤髪だからって家族に迷惑かけたくないんだ。」

そっかとおじさんは俺の肩を抱く。

「それなら何も心配しなくていい。兄貴はそんな奴らに失脚させられるようなタマじゃねーよ。」

俺はその後にむしろそいつらが失脚させられるさという台詞が隠れていたのを後々知ることになる。

「でも…俺、喧嘩弱いし…。」

立てた膝に顔を埋めて言うとなんだそんなことかとおじさんは拍子抜けしたような顔をした。

「なら、強くなればいいんだよ。俺みたいにな。」

カカカと笑うおじさんに本当にそうなれる気がして、嬉しくなって頷いた。

 

「テンチャお姉ちゃん、ディルお兄ちゃん。私もお姉ちゃんとお兄ちゃんみたいに強くなりたい。」

そうリアが強い眼差しを持って言ったのは夕飯の後、俺の部屋で姉さんが直球で聞こうと口を開いた時だった。

「えっと…ディルは良いとして私も?」

姉さんはおじさんに軍属でもやっていけると言わしめた程の実力がある。それで何をしらばっくれているんだと言ってやりたかったが力強く頷くリアに閉口する。

「テンチャお姉ちゃんは強いってお父さん言ってたの。それにさっきディルお兄ちゃんに強い蹴りを放ってた。」

気がつかない内に見られていたらしく2人で顔を見合わせた。さすがおじさんの娘、観察眼はピカイチだ。

「…どうしてリアは強くなりたいんだ?話してくれる?」

今度は絶対に聞かなければならないと思った。きっと、リアは俺と同じ理由で強くなりたいはずだから。

「…私ね…。」

泳ぐ緑が赤に隠れる。俯いたリアはポツリと皆が聞きたかったことを溢した。零れる水滴と共に。

 

 

「…ということらしい。多分今回はバルヒェットの奴らもそういう意味で言ったわけではないみたいだけれど…。あのぐらいの子どもは新しい知識をひけらかしたがるし、主犯格になった子も自分のテリトリーに異物を入れたくなかったんだろうね。」

それに、セージの頃とは違って、一般の人にはあまり差別は残っていないから傍観していた子が多かったみたいだしとロルカ大佐は付け加える。

“今回は”って何だよ…と思ったけれど、怖くて聞けなかった。目が笑ってない微笑みを思い出すように浮かべる姿に背筋が凍る。本当に何したんだ、名門バルヒェット…。

「そうですか。おかげで助かりました。ありがとうございます。」

大佐はにっこり笑って首を振った。

「いいや、気悩むことじゃないよ。僕らもリアの家族だ。今回は血筋が関わっていたし、適材適所ってね。」

出身国の懐かしい諺に少し肩が跳ねてしまったかもしれない。が、気にした様子もなくあ、そうだそうだと思い出したように大佐は付け加える。

「リア、明日には家に帰らせるよ。元々短くて3日間の予定だしね。」

君も限界だろう?と大佐は微笑んだ。本当、ロルカ家は怖い。

「では、失礼します。」

敬礼をして部屋を辞する。あとはリアの帰りを待つだけだ。明日の夕飯はリアの好きな物にしてやろうと思った。

次の日は朝から落ち着かなかった。終いにはアンリさんにため息を吐かれて早退させられる始末だ。あれ?俺、アンリさんにこのことを話したか?

「ただいま。」

ドアが開いて声が聞こえる。らしくもなく走って玄関に向かうと憑き物が落ちたように照れ笑いを浮かべたリアがそこに居た。

「おかえり、リア。」

思わず抱きしめると不思議そうにナルさん…?と声がする。自分で思っていた以上に応えていたのかもしれない。“1人”で居るということに。

「ただいま、ナルさん。」

抱き返してくる小さな身体から伝わる温度に安堵した。

 

 

「うん、今日はここまでにしましょう。リアは頑張り屋だから教えるのも楽しいわ。」

ね、ディル?とテンチャお姉ちゃんがディルお兄ちゃんに聞いた。お兄ちゃんも頷いて私の頭をポンポンと撫でる。

「そうだね。きっともうリアは誰にも負けないさ。」

心地よい秋風が汗を冷やしていく。風邪を引くからと2人に促されて家へと向かう。尻尾を振ってついて来ていたシエロはお姉ちゃん足を拭かれて家に入ってきた。

「リア。」

お兄ちゃんが呼ぶ。振り向くとぎゅって抱きしめられた。

「強くなったって弱音は吐いていいんだ。俺たちにはいつも偏見が付きまとう。辛くなったら周りの人に話してみなよ。俺たち家族も、ナルセさんだってリアの力になるから。」

な?と首を傾げたお兄ちゃんに頷く。

「ありがとう。」

 

あの頃はよく考えてなかったけれど、ナルさんにたくさん心配かけたんだと思う。

家に帰った時、ナルさん何となく泣きそうな顔してたから。

「ルクリアちゃん、おはよう。」

「おはよう。」

“強くなる”というのは良かったようで、前と同じような生活が戻ってきた。先生に間に入ってもらって、バルヒェットくんたちにちゃんと、自分の気持ちを言うことができたのだ。

“強くなる”のは戦うことだけじゃないんだよってディルお兄ちゃんが言ってた。

私はもっと“強く”なってお父さんみたいに護れる人になりたいと思った。だから大きくなったら軍に入りたいってナルさんに言ったら驚いたように目を見開いていた。

「きっと、セージさんはそれを望んでいないぞ。」

ナルさんは少し悲しげに言った。昔、私がお父さんと同じ軍人さんになりたいってお父さんに言った時と同じ顔で。

「いいの。私が決めたことだから、お父さんも分かってくれると思う。」

だって軍は、赤髪で女だとしても、ちゃんと自分の力で生きていけるんだって、ただ憐れまれるだけの存在じゃないんだって、一番証明できる場所だと思うから。

「…そっか。じゃあまだまだ強くならなきゃだな。」

ナルさんが頭を撫でる。

お父さん、私、強くなる。もう世界が白と黒なら良かったのにって思わなくていいように。大切なものを護れるように。

だから心配しないで。

舞い散る粉雪の中、お父さんとお母さんの名前が刻まれた石の前でそう誓った。