親切な車が止まってくれた。
会釈をし、小さな手を引いて道を渡る。
防波堤の向こうに蒼い海原が広がっていた。
立ち止まった俺をリアが不思議そうに見上げる。まだ背の低いリアには防波堤の向こうが見えていないのだと気づき、抱き上げて防波堤の上に上がろうとする。
と、リアが身じろぎし出した。
「こら!じっとしてろ!」
そう言えばリアが落ちないように尻に当てていた俺の手を叩く。
「ナルセ、スケベだめ!」
「ちょ、呼び捨てよくない!」
なんとか上がり、防波堤の上に降ろしてやるとプイと横を向かれた。
「リア〜、ごめんって。」
謝ればちらとこちらを見て不機嫌だった顔を綻ばせる。差し出された小さな手を握った。
ひとしきり波打ち際で遊んだ後、2人で砂浜に座っていた。
じっと水平線の向こうを見ていたリアがこちらを向く。
「ナルさん、波はどうしてできるの?」
「風が吹くからだよ。」
そっかと再び視線を戻したリアが口を開く。
「あのね、人は死んだらお空に行くんだよ。」
うんと相づちを打ってやるとリアは更に言葉を重ねる。
「それでね、お母さんが言ってたの。死んじゃった人は1年に1回だけ帰ってくるんだって。」
だから、とそこで一旦言葉を切るとリアは俺のことを見つめた。潤んだ孔雀色の瞳に俺が映る。
「お父さんも、お母さんも…ナルさんの大切な人もきっと、海の向こうから風になって、波になって帰ってきてくれるんだね。」
波が砂浜に打ちつける。汐風が俺たちの髪を弄んでいた。
宿に戻ると朝食が用意されていた。
パクリとオムレツを食べたリアの頬にトマトソースが付く。
「リア、付いてるぞ。」
指で拭ってやるとびっくりしたように目を開いてからありがとうと言われる。
窓の外は陽に照らされた水面がキラキラと反射していた。