【聖杯戦争…?Ⅱ】
「ねぇねぇキャスター。今まで誰も来ないけど本当に戦争してるのかな?」
夜道は2人の足音とコンビニの袋が立てるガサガサという音だけが響く。
「うーん、まだ召喚されていないのかもしれないね。それに…今来られたらテオはお腹空いてて戦えないだろう?」
「うん!」
今日の夜食は何かな〜?と嬉しそうなテオにキャスターも表情を和らげる。
その時、キャスターが歩みを止めた。
「キャスター?」
不思議そうに小首を傾げたテオをキャスターがやんわりと留める。
「お客さんみたいだ。」
キャスターの視線の先、街灯に照らされた道の上に男女が舞い降りた。
「こんばんは。」
女の方が話しかけてくるとテオは笑って答える。
「こんばんは、僕に何か用なの?」
えぇと女は頷く。
「ついて来てくださる?」
その言葉にキャスターは断ろうと思ったが、女の後ろに立つ黒髪の男がこちらに殺気を向けた。それを感じてキャスターはテオに耳打ちする。
「言う通りにしようか。クラスも気になるしね。」
うんとテオは頷く。
「いいよ?でも、僕お腹空いてるからあんまり長いと困るなぁ。」
多分、短くて済むと思うわと女は答えた。
女に連れられて行った先は廃病院だった。その前庭で4人は対峙する。
「単刀直入に聞くわ。あなた、マスターよね?サーヴァントのクラスが知りたいの、教えてくれる?」
女の言葉にうーんと唸るテオ。
「だめ。不利になっちゃうもん。ね?」
キャスターも頷く。
「君もこちらの返答は分かっていたんじゃないかな?だからここに連れて来た。」
すると後ろに立っていた男がパチパチと拍手する。そして余裕たっぷりに笑うと言った。
「ご明察。そこまで分かっているなら…遠慮なく行かせてもらうよ!」
男が叫ぶと空中から人の背丈もあるような剣が出てくる。一目見て重そうなそれを軽々と振り回すと戦闘の体制を取った。
「えぇっと…ちょっと待ってくれるかな?」
キャスターは自分の服をパタパタと叩き出す。
ズボンのポケットを確認し、上着のポケットも確認すると動きを止めた。
「マスター、今日は無理だ。」
「うん。」
男にくるりと背を向けたキャスターはテオを背負う。
「ごめんね、今日は引かせてもらうよ。」
その言葉に男の眉が跳ね上がる。
去ろうとするキャスターを男が追いかけた。
「行かせないよ?」
振り下ろした剣が地面に当たると亀裂を作り出してキャスターへと向かって行く。それに気づいたキャスターは何でもないような顔で空中へと飛び上がった。
「本当にごめんね。マスターが燃料切れじゃなければお相手するんだけれど…。」
「あ!言っておくけど僕のサーヴァントは強いからね!」
ビシッと指を突き立てたテオと背負ったキャスターが夜の闇へと消えて行く。男は悔しそうな顔をしていたがふぅと一息つくと剣を消した。
「ごめんね、マスター。逃げられちゃった。」
「また機会はあるわよ。焦らないようにしましょう、セイバー。」
2人もまた、闇へと消えて行った。
「…どうですの、ライダー。」
廃病院の屋上、甲冑を来た男と顔に大きな傷のある女が立っていた。
「黒い方はセイバーだろう。剣を使っていた。もう1人は何とも言えん、ただバーサーカーではないとだけ分かれば十分な収穫だ。」
それに女は頷いた。
「では、わたくしたちも帰りましょう。」
女が帰ろうと踵を返した時、ライダーの視界の端で何かが光った。
目にも留まらぬ速さで女の前に飛び出し剣を払う。鈍い音と共に床がえぐれる。
「な、何がありましたの⁉︎」
ライダーは光った方向を見据える。しばらくすると構えを解き、剣を収めた。
「…狙われていたようだ。」
床にめり込んだそれをライダーが拾う。
「銃弾…か。」
廃病院から1km。ビルの屋上に女が2人立っていた。
「…本当に見えているのか?」
背の高い女が怪訝そうに問いかけると少女はコクリと頷いた。
「今、廃病院の庭で2組対峙してます。それを屋上で見ているのが1組。あと、サーヴァントが木の上で見てます。」
女は信用できないというように息を吐く。すると少女は少し悲しげに笑った。
「私はアーチャーのサーヴァント。物見もできないようでどうします?」
「…それもそうだな。」
お前を信じるとしようと言った女に少女は嬉しそうに笑う。
「マスター、屋上で見物している人たちはどうしますか?」
その言葉にハッと女は笑った。
「撃っていい。私たちも奴らの実力を見させてもらおうじゃないか?」
少女は頷くと足のホルスターから拳銃を取り出した。構え、ピタリと静止する。女にはそこにいるはずの少女の気配が薄くなったように感じた。
トリガーを引くと一直線に弾がそこへと向かって行く。構えを解いた少女が目を凝らす。と、すぐにホルスターに銃をしまって女の手を引いた。
「どうした?」
「防がれました。相手は剣なのでセイバーかライダーでしょう。こちらに来られる前に移動しましょう。」
少女は女を軽々と横抱きにする。
「なっ…!!」
そうしてビルから、飛び降りた。
「久しぶりだな、ランサー。」
物陰から声がする。ランサーと呼ばれた男は不機嫌そうな顔をさらに顰める。
「貴様に久しぶりと言われる筋合いはないなアーチャー。」
ランサーの声にアーチャーと呼ばれた男は声をあげて笑う。
「俺がアーチャーだって?今回はちげーよ。な、マスター?」
話を振られた青年もおう!と答えた。
「ふむ、ではお前のサーヴァントのクラスは何だ?」
髪をゆるく結んだ男が問うと男はニヤリと笑った。
「まぁ、こっちが知っててあんたらが知らねぇってのもフェアじゃねーわな。どうする?」
「マスターの好きにしていいぜ。」
姿の見えぬ声に青年は頷くと男に言った。
「俺のサーヴァントはアサシン。背後には気をつけてくれよな。」
ほうと男が感嘆の声をあげ、顰め面をした男はフンと鼻で笑った。
「で、貴様は今日は戦う気が無いんだったか?」
「ってアサシンが言ってるんでな。今日は挨拶なんだと。」
そうかと男は人好きのする笑みを浮かべる。
「わたしの名はリオラ。またいずれ会おう、少年。」
ランサーを伴い背を向けたリオラに青年は叫ぶ。
「俺は少年じゃなくてナルセって名前があんだよ!」
ナルセを面白いというように見たリオラが言った。
「ではな、ナルセ。」
風を切る音が耳元で鳴り、女はぎゅっと目を瞑って衝撃に備えていたが、トントンと軽やかな音が規則正しく聞こえてくることに気がついた。
「マスター?」
アーチャーの声に女は恐る恐る目を開ける。
「…死ぬかと思った。」
ふーっと息を吐いた女に少女はコロコロと笑った。
「落とさないから大丈夫ですよ。さ、家の近くです。」
近所の人に目撃されても困るからと路地裏に降り立つ2人。路地を抜け、通りに出たところでホッと息を吐く。
「帰ろう。」
「はい。」
帰路につく2人。
「あ。」
短く声をあげて姿を消したアーチャーにエンは小首を傾げる。
「アーチャー?」
呼びかけても出て来ないため、仕方なく無言で歩を進めているとすれ違った人影に声をかけられた。
「あれ?エンちゃんじゃん!」
「セイ…。」
こんな時間に何してんだよ〜?と近づいてくるナルセをエンは冷たくあしらう。
「散歩だ。身体が鈍るのでな。」
ふぅんと気の無い返事をしたナルセの視線がエンの左手に留まる。互いのサーヴァントの姿は見えないが、手の紋様がその事実を示していた。
「お前もマスターだったのか⁉︎」
その言葉に彼女は鼻で笑う。彼女もまた、ナルセの左手を見ていた。
「あぁ。どうやら敵同士、らしいな。」
2人の間に緊張が走る。それを打ち破るかのように手を叩く音が聞こえた。
「はーいはい、お二人さん落ち着いて。な?」
暗がりから出てきた男がニヤリと笑った。
「嬢ちゃんのサーヴァントは?」
「いや、先ほどどこかへ「私です。」
エンの言葉を遮ってアーチャーが出てくる。
「俺はアサシンのサーヴァント。そっちは?」
「アーチャーです。どうぞよろしく。」
サーヴァント同士が挨拶するのを見てキョトンとする2人。
「なんであいつら挨拶してんだ?」
「さぁ…?」
ヒソヒソと話しているとおい!とアサシンが声をかけた。
「マスター、こいつらと共闘しようぜ!」
いいよな?とナルセとエンに聞くアサシン。
「いや、俺は出来れば知ってるやつと敵同士になりたくねぇし文句ねぇけど…お前は?」
ナルセの言葉にエンは頷く。
「…私も構わない。仲間はいても良いと言っていたな?」
エンがアーチャーに確認を取るとアーチャーが頷く。
「じゃあそういうことで!よろしくな嬢ちゃん!」
「エンだ。よろしく。」
差し出された手を取りアサシンが笑う。
夜道で一時の共闘関係が生まれた。
「…これは大変です…!」
物陰から見ていた青年の姿が搔き消えるのを見た者は誰も居なかった。